【追悼集より】父のこと 伊藤二朗(次男)
一平、二朗、三太。男三人兄弟の真ん中で北星の柔道の伊藤の息子。それが、中学校卒業まで過ごした余市町での自分の立場のようなものでした。体格、服装、声の大きさや意味不明のかけ声等、何をやっても目立つ父の姿が疎ましくて、とにかく恥ずかしい人というのが、当時の自分の父を見る目でした。その感情が深く深く心の中にわだかまったまま、かなりの年月を過ごしたと思います。一言で言うと
「父を嫌いだったなー」
普通であることや人と同じで周りから浮かないこと。そんなことが自分が生きるうえでとても大事な事になっていたから。家庭の中の父は、だらしなく酒ばかり飲んでいて、子供の教育は基本的に放任だったと思います。兄がドキュメンタリー番組の中で
「家で勉強しろと言われたことがなかった」
と言っていましたが、本当にその通りで、多分息子たちに対して将来の期待を具体的に言葉に出して言ったことはないのではないかな。自分の進路に関しても、
「こうしたほうがいいんじゃないのか?」
とか
「それはダメだ」
みたいのは一切無く、受験に失敗しようが、海外に行くと言い出そうが、何でもそのまま受け入れてくれました。そういうことが実はなかなか出来ない事で、「父の度量の大きさ」だったのだと分かるまで随分時間がかかったように思います。
自分の家族を連れて余市に帰ってきて、おじいちゃんになった父に孫たちを会わせるのはとても嬉しいことでした。昔のパワーはなくても、相変わらず変な人のままでいる父は、たとえ短い時間でも孫たちに十分なインパクトを残してくれたと思います。
どんなにこちらから嫌いだという態度をとろうが、何年も連絡をしないでいようが、生意気な口の利き方をしようが、父から受ける愛情に疑いはありませんでした。
「失敗したっていいんだよ」
「情けなく、格好悪く生きていいんだよ」
といつも、本当に死んでしまうまで、父からは枯れることのない愛情をもらっていたのだと思います。結局、ずっと甘えさせてもらったのですね。